●さぁ、旅だ!

 早くしなければ。さっきから玄関前にタクシーを待たせたままだ。いつものことながら旅の準備がなかなか終わらない。大きなバックパックに荷物を押し込み、これで準備が終わったのかどうかもよく分からないまま、とりあえずタクシーに飛び乗る。旅の多い暮らしが続いているくせに、いつまでたっても出発直前はこの通り慌しい。そして、出発直後はタクシーの中で何か忘れ物をしているような不安な気持ちでいっぱいになる。

 時計を見ると、どうやら空港までの電車には間に合いそうだ。やっと少し落ち着いて車窓から外を見ると、札幌はもう日が暮れかけていた。円山のあたりの少しがらんとした街並みが、ナトリウム街燈のオレンジ色の光で、いっそう深い青に染まって見える。タクシーを降りてバックパックと馬頭琴を背負い、円山公園駅の階段を一歩一歩下りる。ずしり。ちょっと荷物を詰めすぎたかも知れない。

 地下鉄で新札幌駅へ。ここでJRに乗り換えて新千歳空港へ。本州方面での演奏会がある度たどる、我が家から空港までの定番ルートだ。千歳で一服。空港で飲むビールはなんでこううまいんだろう。

 最終のフライトで羽田空港へ。京急の終電にギリギリ間に合って、都内の友人宅に着いたのはもう深夜だった。久しぶりの再会だったのでつい明け方まで話し込み、2〜3時間熟睡したら、もう朝6時の目覚まし時計が鳴ってしまった。ここでもまた慌しく出発だ。

 東京の電車はいつも込んでいて苦手だが、朝だけは一日の始まる心地よい緊張感がみなぎっている気もする。たぶん僕がたまにしか乗らないからだろうが。

 成田空港につくと、夏休みのせいだろう、朝早くからものすごい混み様だ。午前中のフライトで中国・北京空港へ。初めて入る中国。そこら中の簡体文字の漢字が、読めるような読めないような。

 そして北京から国内線に乗り込みフフホト空港へと飛び立った。札幌を出発してまだ24時間経っていないのに、新千歳から数えてもう5つ目の空港に向かっている。旅の準備のドタバタがなんだか昔のことのようだ。

 飛行機は、やっと中国・内モンゴル自治区の上空にさしかかった。もう少しで到着だ。

 


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嵯峨治彦
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