Up


『アイデンティティと伝統曲』

(1999年 2月5日 NNL vol. 12)


 昨年のトゥバ旅行の時、喉歌の名手コンガルオール氏のお宅にお邪魔した。そこで、彼の小学生の息子が父のCDにあわせて楽しそうにトゥバの民謡を口ずさんでいるのを見た。音楽が暮らしの中に息づいている光景だった。

 その子の音楽的アイデンティティは、こうして伝統曲を背景に作られていくのだろう。一方僕が小学生だった頃よく聴いたり歌ったりした曲には、CMソング、アニメソング、歌謡曲が多く、日本の民謡はあまりなかった。

 多くの日本人は、すでに民謡が日常生活と離れつつある社会の中で、マスコミに乗った音楽を聞いて育っている。伝統曲が個人の音楽観に直接影響を与える機会は少ない。これは高度経済成長の果てに日本人が背負った悲しい運命だ。

 しかし、この運命も音楽の喜びを奪うものではない。歌謡曲に懐かしさを、伝統曲に新しさを感じる感性を、そのまま音楽的アイデンティティとして認めよう。その上で自然に楽しめる音楽を暮らしの中に息づかせていけば良いのだ。なんちて。

[BACK] [INDEX] [NEXT]

 

ホームへ


のどうたの会 嵯峨治彦 nodo@ma4.seikyou.ne.jp